e-OHNO MAIL NEWS 第184号

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  e-OHNO MAIL NEWS 第184号 2020/01/24

      https://www.ohno.mgmt.waseda.ac.jp/wordpress/

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こんにちは。2020年も宜しくお願い致します。今月号のe-OHNO MAIL NEWSの編集を担当させて頂くこととなりました、学部4年の摩嶋翼と申します。

今回のメールマガジンは、以下のコンテンツでお送りいたします。

■ 今月号のコンテンツ ■ (敬称略)

【1】説得する力のある文章    大野高裕

【2】ビジネス最前線       井上吉康

【3】リレーエッセイ第19号

(シニアの部) 鈴木幸路

(中堅の部)  谷内亮太

(若手の部)  神田大成

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【1】説得する力のある文章  大野高裕

この写真、わかりますか?

そう、卒論要旨です。皆さん、全員が書きましたね。この1月の風物詩、卒論・修論の要旨の作成には毎年のようにドラマがあります。今年は1月17日が卒論要旨の締切でしたので、その数日前にこの写真を撮りました。もう、真っ赤っかですね。グチャグチャですね。何度も何度もチュータや助手の人、そして私に突き返されて、心の中で「鬼」「人でなし」と何度叫んだことでしょうか?

卒論はA4で2枚に、修論は4枚に自分の研究のすべてを簡潔明瞭・論旨明解にまとめ上げるのですから、並大抵のことではありません。ですが、この関門を潜り抜けることによって、要約力、論理構成力、文章表現力が見違えるほど身についたことは間違いありません。

昔は、写真の世にワープロで打ちだした紙に、赤字で誤字脱字を直したり、コメントを記入して、直接、作成した本人と面談をして説明し、直す作業を進めていきました。ですので、締め切り前日は、私も若い頃は研究室に泊まり込んで、修正が上がってくると仮眠から起きてチェックするなんてこともしてました。ところが今ではネットの時代ですから、要旨原稿はメールでファイルが送られてきて、それを私が印刷して写真のように赤字を入れて、それをpdfファイルにして送り返します。もちろん、Wordの校閲モードがあるので、まず最初のチェックでは校閲モードで、全体構成や不足する記述事項の大まかなところを吹き出しのコメントにして送り返します。そしてある程度まとまってきたら、写真のようにハードコピーに赤字でガンガン細かな修正を入れていきます。文章表現や文字の修正を私が校閲モードでやってしまうと、作成した本人が直さなくても済んでしまいますから、それでは本人の実力アップにつながりません。ですから、ここからは未だにアナログ作業となっています。

卒論要旨の提出も今ではLMS(Learning Management System)というレポートなどをネットで受け付ける仕組みを使っているので、締め切りの昼12時近くになって、提出場所の会議室に行列ができるなどといった光景は見られなくなりました。昔は締め切りギリギリで間に合いそうもない仲間に、表や図を作ってあげている光景が研究室内のあちこちで繰り広げられていたものです。ある時には要旨提出当日の朝に、提出するはずのファイルが壊れてしまった人がいて、そのため、やや古いバージョンのファイルの修正を皆で手分けして修正し、何とか間に合わせたなんてこともありました。(誰だったかなあ?) そして昼過ぎには冷蔵庫からビールやワインを持ちだして、そしてつまみも買ってきてプチ打ち上げの宴会もやりましたね。ちょうど締め切り日の間が悪く、私の誕生日の近辺でしたから、ほぼ強制的な誕生日パーティと化してしまっていました。(皆さま、その節はどうもありがとうございました)

今では、LMSでの提出ですから、提出締め切り日の研究室は静かなものです。それに、締め切りまでは何度でもLMSへの差し替えができるので、とりあえず完成度が低くても、ファイルを送っておいて保険を掛けておく、なんてこともやってます。昔は寝坊して起きれなかったら困るから、と研究室に泊まるとか、友達に起こしてもらうとか、はたまたファイルを家に忘れると困るのでコピーを研究室に置いておくとか、みんな、リアル、アナログの世界でいろいろな心配をして対策(リスクマネジメント)をしていました。現在は便利でそれはありがたいのですが、味気ないといえば味気ないですね。

昔から、「この文章、さっぱりわからん!」というのは数多くあったのですが、最近の特徴で感じることが3つほどあります。

一つは分析した結果を中心に据えて全体構成を考えようとする傾向です。分析してみたら「こういうことが分かりました、発見しました」というのを中心に書きがちなのです。私はそれに異を唱えています。なぜなら研究の目的を「発見」を中心にするのが、「理学」であるのに対して、私たちがやっている「工学」は役立つ仕組みを「創り上げる」ことだからです。ですから、「発見する仕組みを作り上げる」ことが研究の目的とならなければならないと考えています。調査して統計分析をやって、その結果を考察して結論を得るとしても、私たちは結果を得るための分析モデル構築がメインであるとの立場をとるべきだと思うのです。調査して結果を得るというのは1回限りですが、分析モデルを創れば、何度でもそれを使って調査分析はできるのです。

なぜ、そんなどうでもよさそうなことに拘るのか? それは私たちが社会において、仕事などで課題を解決するための仕組みを作ることを職務として期待されているからです。私は人の職務は大きく2つに分けられると考えています。一つは与えられた仕事を与えられたやり方その通りにやる人、もう一つは仕事のやり方を作る人です。たとえばハンバーガーショップで例えると、マニュアル通りにカウンターで接客する人と、そのマニュアルを作る人の違いです。私たちは工学を学んできたのですから、後者ができるはずですし、それが社会への恩返しです。常に新たな仕組みを作ることを習慣化することがとても大切なことであると思っています。

2つ目の要旨の特徴は、自分が研究をやった順序で内容を記述しているということです。自分の研究史を書いているような雰囲気です。自分がたどってきた道筋に沿って書きたい気持ちはよくわかります。それが要旨を書くシナリオ構成のためには、唯一の手掛かりなのですから。しかし、それは私のための要旨であって、読み手のとっての要旨ではありません。要旨は自分の研究成果を理解してもらうためのものです。いわば、売り込みたい新商品のプロモーションツールです。どんなに優れた商品を開発したとしても、その素晴らしさが相手に理解してもらえなければ一銭の価値にもなりません。自分がどう思っているかではなく、幽体離脱して読み手の魂に入り込んで、その人のどこをくすぐれば反応してくれるのか、納得してくれるのかを冷静、客観的に分析して、それに基づいて書くことが必要なのです。

そうは言っても、とても難しいことはわかります。私自身、自分が書く文章は相変わらず読み手を無視した自分勝手なものとなっています。どうしても自分の価値観や主観、分析能力に縛られてしまうので、未だに相手の立場に立った納得性のある文章は書けません。ですから、他者に見てもらうのがとても重要だと思います。気づかせてもらうことで、文章も格段に良くなりますし、次回以降に向けての自身の能力アップにもつながります。

大切に仕上げた卒論の成果、これを理解してもらえないのはとても悲しいことです。「分からないほうが悪いんだ!」と言ってしまったら、永久にその良さは評価されません。売れない商品と同じで、どんなに素晴らしい新商品であっても、それを理解してもらえるようにするには、その納得性を得られるような説得力のある文章が不可欠です。これから社会に出て、自分のやった仕事の結果を正当に評価してもらえるためにも、卒論要旨を作るときにボコボコにやられる経験は、大きな能力獲得につながっているものと信じています。

最後3つ目の特徴は、文章に主語・目的語のどれかが欠けている、あるいは文章間に接続詞がないということです。昔に比べて、一つひとつの文章が短文化しているのは分かりやすくていいのですが、一文の中で主語がなかったり、目的語がなかったりして、何を言いたいのかの類推に手間取るのです。また、接続詞がなく、文章がベタに並んでいるので、話の展開がどうなっていくのかを理解するのに、こちらが推論するので読み解くのに時間がかかります。それはなぜなのか? ということを考えてみると、どうもSNSの多用が原因ではないかと思い至ります。Twitterなどどれも短文でコミュニケーションをするのが生活習慣です。本を読まなければ長文という見本に接することもありませんし、手紙も書きませんから長文の文章を書く機会もほとんどありません。実際、学生に聞いてみたら、日常では本を読まないし、長文を書くこともないそうです。

元々、日本語は主語などの省略が多く、文章のコンテクストやニュアンスは読み手の側に委ねていると言われています。その極端な文芸文化が俳句だと思うのですが、文字に表現されていない部分にこそ、美しい情景が潜んでいて芸術的な価値が高いということになっています。そこには読み手がどのように解釈しようと許される世界が広がっているわけですが、卒論要旨のように、自分の「新商品」をいかに価値高いものとして間違いなく理解してもらうか、ということのためのツールにおいては、簡潔明瞭・論理明解な文章が求められます。読み手が深く考えることなく、「ふんふん、そうだねえ」と思わせてしまえば「買ってもらえる」のです。ですから、主語・目的語・述語のセットがはっきりしていること、話の流れ(展開)がスムーズになるように、ほどほどの分量の接続詞が入っていることが重要なのです。つまり、読み手が「速読可能」であることが必要条件だと言えると思います。

ですから、このことも卒論要旨を通じて、日常生活の言葉省略・文章孤立から脱却する能力を身につけてほしいと思っています。とは言うものの、たった1回きりの訓練では入口レベルでしょうし、「気づき」ぐらいのところだとは思いますが、それでも将来に向けて、何らかの役には立つと思っています。本当は大学院の修士の進んで、研究を通じていっぱい論文や本を読んだり、学会発表や投稿論文の文章を書くシビアな機会を生かすことで、十分な訓練を積んでくれたらなあ、とは思っています。実際、修論のチェックをしてみると、明らかに4年の時の卒論と文章のレベルが違ってハイレベルに到達しています。でも、全員がなかなかそういうチャンスが与えられるわけではありませんから、卒論要旨作成での「気づき」を大切にして、社会で訓練を積んでいもらいたいものと思っています。

ところで、考えてみると、江戸時代は文章は「そうろう文」で文語体だったものが、今では口語体になってしまいました。私たちは文語体など読むことも書くこともできません。そう考えてみると、SNSが引き起こした短文・言葉省略・文章孤立というのは、これから文章の在り方、そのものを変えてしまう革命的な出来事であるのかもしれません。ということは、今月、ここまで長々と書いてきたこと、それ自身が必要性を失って消えてしまうことかもしれませんね。とは言うものの、古い世代がまだ幅を利かせているであろう今後十数年は、文章作成に必要な能力でありそうです。新たなミュータント文章が中心となる頃には、もう私も消えていないので、あとは皆さんにお任せしますね。

遅くなりました。今年もどうかよろしくお願いいたします。

皆さまにとりまして、ますます幸せな年になりますように。

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【2】ビジネス最前線  井上吉康

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銀行・証券などの金融業界では、1990年代に、それまで長年の業界常識だったディーラーたちの株価・為替チャートを睨み、経験と勘に頼りながらの生き馬の目を抜く戦いから、金融工学に基づく科学的客観的な売買スタイルへと革新されました。そして、現在ではその金融工学も、AI(人工知能)とビッグデータによる次のイノベーション的金融取引に主役の座を空け渡すような動きが始まっているようです。

金融業界でディーラー一筋に歩んでこられた井上吉康さんにそのあたり興味深い事情を書いていただきました。とっても勉強になります。楽しみながらお読みください。

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大野研を1998年(平成10年)に修了しました井上吉康と申します。

先日は卒業以来、およそ20年ぶりにOB会に参加させて頂きまして洵にありがとうございました。

大野先生ご夫妻には、私の結婚式では仲人をお願い致しました。その後、私の海外赴任がありました事から、あまりご挨拶も出来ていませんでした。

今回の執筆依頼を頂戴して、少しでも大野研の現役学生の皆さんと、大野先生のお役に立てればと思い、諸先輩方がご執筆される中、僭越ながらお受けしようと思いました。

私は、平成10年に東京三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)に入行しました(銀行では入社ではなく、入行と呼びます)。修士時代に、葛山先生のご指導の下、デリバティブ(金融派生商品)の価格理論などの研究をしていた事から、デリバティブに関わる業務への従事を希望していました。

現在は、Financial Technology採用コースなどが用意され、銀行の採用も多様化しておりますので、色々なキャリアが選べる様に変化していますが、当時の銀行では、新入行員はまず支店に配属されるのが一般的でした。入行後は一ヶ月に渡る研修で、ビジネスマナーやお札の数え方、預金などの商品性や財務分析などを学び、その後配属先が発表されましたが、この配属先で為替資金部(現 金融市場部)への所属を命ぜられ、これを一瞬川崎支店と聞き間違えた話は先日のOB会でも披露させて頂きました。為替資金部という部署は、お客様の外国為替に関わるお取引を担う部署で、お客様と外国為替市場を取り次ぐセールスと、セールスを通してお客様に商品提供(価格提示)と、お客様から引き受けた外国為替リスクをマネージするトレーディングから成り立ちます。貿易に大きく依存する日本にとって外国為替は非常に重要なファクターです。外国為替銀行であった東京銀行の系譜である当行には、当時から東京外国為替市場は我々が守る、日本の外国為替に関わるニーズは我々が必ず対応する、という気概が根付いています。ある先輩は「我々は東京市場の番人なのだ」と日々言っていました。そうした部署の中、通貨オプションと呼ばれるデリバティブのデスククオンツとして社会人生活をスタートしました。

私が所属したデスククオンツのラインは、4名のラインでしたが、全員が理系(2名が院卒、1名が学卒)でした。通貨オプションと一言で言っても色々なオプションをお客様に提供していました(今は更に多種多様な商品があります)。バニラオプションに始まり、ノックアウトオプション、デジタルオプションなど、お客様のニーズに合わせてエキゾチックオプション(バニラオプション以外の総称)を提供していました。一方、お客様の為替リスクヘッジニーズにどうしても合致した商品がない場合もあります。そうした際に、お客様ニーズに合う商品を設計し、その価格付けやリスク管理を行うプライシングモデルの開発(数式を導き、プログラミングしてその数式の妥当性、正確性などを検証、銀行内部での承認申請、システム開発を行い、お客様に提供する)を行う業務でした。新人の私が先輩方から聞かされていたのは、「お客様に新しい商品の価格を求められたら、何が何でも24時間以内に価格提示をする(ように頑張る)」という事でした。今、同じ事を部下に言うと「なんてブラックな企業なんだ」と言われますが、今でも私の中には、この当時の考え、つまり、何としてもお客様のニーズにお応えするのだ、という思いが中心にあります(寝ないで働くという事じゃないですよ)。

私が入行した1998年は、前年のアジア通貨危機の相場大変動が冷めやらぬ中、ロシアの財務破綻リスクが高まり、ロシア危機が発生。デリバティブ理論に携わった方なら誰もが名前を知る著名な教授陣(ロバート・マートン教授とマイロン・ショールズ教授)が率いたヘッジファンドLong Term Capital Management(LTCM)がロシアなど新興国への統計モデルを用いた投資で失敗、破綻、世界中の市場を大きく変動させた年でした。相場が想定外(当時、ロシアが破綻するリスクは統計的に6σの事象と言われていました)の動きをする時、デリバティブの評価モデルとそのモデルを用いたリスク管理が如何に重要か、銀行など金融機関の財務に影響するかを実体験しました。

その後、2004年からロンドンにて通貨オプションのトレーディングに従事しました。2008年のリーマンショックに繋がる予兆は2007年フランスの銀行、BNPパリバがファンド閉鎖を実施したパリバショックからだったと記憶しています。その時の市場でも変動の大きさが想定を大きく超えたため、そもそもデリバティブ評価モデル(LTCM危機を受け、高度化が進んだにも関わらず)が正しく計算できない、といった様な事象も起き、モデルの重要性と、その継続的な高度化の必要性を再認識しました。

現在は、外国為替トレーディングのマネジメント職を担っています。外国為替市場も過去10~15年大きく様変わりしました。株式市場同様に電子取引が大きく拡がっています。ICTやAIの発達により、銀行業務の多くが機械に置き換えられるのでは、と言われていますが、為替トレーダーもそのように言われていたりもします。それは、こうした電子化の進行で人間トレーダーをシステムが代替し、人間は必要なくなるのではないかと考える人もいるからです(私はそうでないと思っていますが、それは後述)。一方で、電子取引システムを構築・運用するには、そのシステムとシステム上で稼動するロジック(ロジックにも主に以下二種類あります。クオンツと呼ばれるメンバーがAIなどを活用し、プログラミングしてお客様へのプライシングやリスクマネジメントを自動で動かすロジックと、そもそものビジネスロジックです。)が重要です。システム面では、24時間動き続ける外国為替市場において、如何に高速(数ミリセカンド以下のスピード)での計算処理が出来るのか、がお客様向けサービスそのものになります。そうしたシステムをいかにデザインし、構築、運用するのかが銀行サービスそのものになります。この様に従来の銀行業務とは異なる業務が生まれています。ロジック面でも同様です。大量、高速に入ってくる市場変動のデータを如何に早く、賢く活用してお客さまに価格としてお届けするか。クオンツメンバーが確率統計やAI手法を用いてロジックを構築、高度化をしています。これも10年前には存在しなかった業務です。

さて、こうして変化を続ける外国為替業務ですが、人間トレーダーが必要なくなるか、です。私はなくならないと確信しています。その理由として以下二点です。一点目は、過去からの経験です。例えば、前述したLTCM危機は確率・統計理論の大家がロジックをベースに取引したものの、市場の変動は時にロジックの想定を超えた動きで破滅的な結果をもたらしました。市場は常に変化し続けます。それゆえ、その変化に柔軟に対応できる人間の経験、スキルの重要性は下がらないと感じているからです。二点目は、電子取引ロジックの高度化にも人間トレーダーの経験、スキルが必須であり、人間トレーダーの仕事自体が進化していく、と考えているからです。

銀行業務自体が上述の様に変化しています。これまで一般的に“金融の領域”と考えられていた領域自体も変化します。お客様の業務も変わります。その中、変わらないのはお客様のニーズに応えるという事、そのために新しいサービスを考え、実現していく業務はこれからもなくならないと思います。銀行業務に限らないかもしれませんが、特に、ITやデータ分析領域の重要性は増加の一途です。世の中の変化のスピードは益々上がっています。人間が遺伝子操作(ゲノム編集)でより優れた人間を作ろうとしたり、2045年にシンギュラリティが訪れAIが人間を超える時代がくるといったような話もあります。現役学生の皆さんには、日本国内だけでなく、世界的に世の中が大きく変化の時を迎えていることに目をむけ、その変化に対して、自分は何を、どう考え、何をしていきたいか、すべきかを自問自答して欲しいと思います。そのためにも、大野研での卒論、修論を通し、自分の頭で考えるトレーニングをして下さい。必ず役に立つと思います。長々と書きましたが、皆さまと大野研究室の益々の発展を祈念します。

三菱UFJ銀行

金融市場部

為替・エマージング通貨トレーディングGr

井上 吉康

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【3】リレーエッセイ第19号

(シニアの部) 鈴木幸路

(中堅の部)  谷内亮太

(若手の部)  神田大成

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(シニアの部) 鈴木幸路

1995年学部卒の鈴木幸路と申します。同期の林君からバトンを受け取りました。

医療系学部のない早稲田大学ですが、早稲田出身の薬剤師となり、家業の三代目として薬局の経営をしております。

私の人生に大きな影響を与え、岐路において何度も道を示してくださった大野先生とのご縁を中心に書かせていただきます。

私が大野先生と出会ったのは大学入学前、高校の卒業式も終えた3月下旬のことでした。

同級生達が皆、受験から解放され遊びまくっている頃、記念受験のつもりで受けた東大後期日程で想定外の合格通知を受け取り、この期に及んで思いっきり悩んでいました。

周囲には「第一志望は早稲田、第二が東大」などと生意気に公言していたものの、されど東大、いざ合格したとなると本当に自分は東大を蹴って後悔しないだろうかと、迷いが出てきていたのです。

「ところで工業経営ってなんなんだ?」そんな疑問を解決しないと先に進めないと思った私はノーアポイントで理工学部51号館に突撃訪問。受付で理由を話してどなたでも構わないから工業経営の先生とお話しがしたいと伝えたところ対応してくださったのが、当時助教授だった大野先生でした。

祖父の代から続く実家の薬局を「薬剤師」ではなく「経営者」として継ぎたい。一般教養からではなく初めから専門的な勉強がしたい。

そんな18歳の青臭い私の話を、大野先生は親身に聞いてくださいました。

最後に言って下さった

「早稲田に来なさい!!(今でいうドヤ顔)」

この言葉は一生忘れないでしょう。

(そして無事進学を果たし早速大野先生にご挨拶に行った私は、周りにいた先生方に「あー、このコね、大野先生に騙されて早稲田に来ちゃったコは!」という言葉で迎えられることになったのですが。笑)

さて、晴れて早大生となった私は、学生らしくキャンパスライフを謳歌しました。

剣道同好会、ブレイクダンス、機械体操、トランポリン、女の子と遊ぶためのサークル立ち上げ等々…色々なものに影響され、手を出し、挫折してはまた別の新しいものへと気持ちが向かっていきました。

早稲田で過ごした4年間は、有り余るエネルギーで一生懸命に若い時間を楽しもうとしていた、まさに私の青春時代でした。

学問にもそれなりに興味を持って取り組みました。大野先生の授業には真面目に出た、と自負しております。

3年次、会計学や確率統計学、経営戦略などに興味があった私は、必然的に大野研究室を選ぶことになります。志望動機と言っても過言ではない大野先生の元へ身を投じるのはよほどご縁があるのだと思いました。

そうして大野先生の元で学を深め、4年次の12月、実家の薬局を継ぐということを現実的に考えるようになった時、やはり薬局を継ぐのなら薬の勉強も必要だと考え至った私は、大学院進学を取りやめ、薬科大受験を決意します。

残りの学生生活は卒業研究と受験勉強に追われる日々を過ごし、卒論発表日の翌日に明治薬科大学を受験、翌春から「早稲田出身の薬剤師」を目指すべく新たな学生生活を始めました。

月日が過ぎ、就職活動の際、私は再び大野先生を訪ねます。

薬の世界から少しだけ離れ、早大生の頃から憧れがあった電子機器メーカーを受けてみるか。それとも薬剤師として実務の修行をするか。

迷った私の頭に浮かんだのは、大野先生の顔でした。「そうだ、大野先生に会いに行こう!」

大野先生が示してくださる道は明確です。当時、ドラッグストア業界のトップを独走していた「マツモトキヨシ」、そこで勉強するなんてどうだ?と。

早稲田卒業から4年後、薬剤師の免許を取得した私はマツモトキヨシに入社し、工業経営学的思考をフルに活用してバリバリと実績を上げます。

入社同期の中で一番早く店長試験に合格し、群馬の新店舗の立ち上げ、北関東で一番売れる店と近隣の2店舗兼任店長、地元神奈川の安売り激戦区での他店との戦い…など、素晴らしい経験を積ませていただきました。

大野研究室出身者として数字に強いのは当たり前、部下のモチベーションの上げ方、売り上げを伸ばすための客数と客単価の掛け算、客の導線、販売促進活動による消費者の購買行動の推移。得意だった多くは、早稲田時代に勉強したものをただ実行に移すだけ。Plan→Do→Seeの繰り返し。

マツモトキヨシを3年3ヶ月で退社した後、調剤薬局での修行を経て、現在は実家の薬局で勤務しております。

退社理由は「医学部受験のため」。その際にも大野先生にご相談に伺い、学士編入試験の申込みに必要な紹介状を書いていただきました。

結果的には果たせなかったのですが、その志望動機であった予防医学の提唱は、実家の薬局で地域医療の一端を担う薬剤師という立場から現在も取り組んでおります。

大野先生との出会いから29年、あの日アポイントも取らずに51号館へ突撃した18歳の少年は47歳の青年(生涯青春が私のモットーです)になり、あの日語った未来を現実にしました。

早稲田大学で学んだ工業経営学的思考はあらゆる仕事の工程分析で使うことはもちろん、私自身のライフスタイルでも大いに活用しています。

効率よく物事をこなし時間を捻出することで、週3回の剣道の稽古、年に5回近く訪れる西表島での地図に載っていない滝を探す冒険、ピアノのレッスンとその仲間との楽団活動等々、プライベートも精力的に活動することができ、それによってまた仕事へ向かう自身のモチベーションを維持することができるのです。

あの頃は工業経営学的思考の未熟さ故に、トランポリンに夢中になっていて研究室に顔を出さず、先生や葛山さん、同期や先輩の皆様にご迷惑をかけたこともあったかと思いますが、生涯青春とはいえ今はしっかり両立しておりますのでご安心ください。笑

最後になりましたが、大野研究室で学ぶ現役生の皆さんへ。

卒業後の進路は就職に限りません。道はたくさん広がっています。

そして、迷った時には大野先生から的確なアドバイスをいただけるはず。

自分の情熱と可能性と、この場所で学び得たものを信じ、大きく羽ばたいてください。

また、卒業しても「帰れる場所」として先生や仲間との繋がりを大切にしてください。

この先ずっと『早稲田で学べてよかった』と胸を張って歩けるように!!

さて、このリレーエッセイのバトンですが、同期の紅一点!渡邉華奈さんにお譲りします。

昨年末に数年ぶりに開催した大野研同期会になんと10人も集まりました!その際に快く引き受けてくれました。

※写真は先日の同期会の様子。真ん中左の青いチェックシャツが私です。

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(中堅の部)  谷内亮太

皆さんこんにちは(はじめまして)。2009年修士課程修了の谷内亮太です。

私は卒業後はゴールドマン・サックス証券(”GS”)に入社し、投資銀行部門のうち資金調達を専門にする資本市場本部で約10年間勤務しております。

一応1月末までガーデンリーブという有給期間のためこのような表記をしておりますが、実質昨年11月末を最終出社日として退職しております。

そして今年の2月より、会社設立から4期目に入った株式会社プログリットにCFOとして加わる予定です。

(この原稿を書いている今1月14日のNewsPicks Live『日本の英語教育は間違っているのか?』に社長の岡田が出演しております。)

GSでの直近のキャリアとしては、ストラクチャード・ファイナンスチームにて主に再生可能エネルギー事業へのプロジェクトファイナンスのアレンジャー業務を行っておりました。

小さいチームでしたので、営業、ストラクチャリング、契約書対応、投資家対応、クロージング、という川上から川下まで一貫して対応しており、事業主や投資家はもちろんのこと、税務・法務の専門家とも様々な議論を交わす機会を頂けて厳しいながら充実した日々を送ることが出来ておりました。

ある程度満足した生活ではあったのですが、やはり一度きりの人生なので刺激がないと面白くない!ということで、10年間という節目を無事に迎えたところで全く新しいキャリアを選択することに致しました。

完全に一からのスタートとなるため、不安も大きいですが、どうなるか分からない環境でのチャレンジへの期待が前を向かせてくれています。

次の会社のプログリットは英語コーチングを主な事業としており、個人だけでなく法人への提案も可能ですので、ご関心がある方がいらっしゃればどこへでもご挨拶に上がらせて頂きます。

さて、次の中堅の部のバトンは、コンサル一筋で頑張っている後輩の鵜飼に渡したいと思います。

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(若手の部)  神田大成

【社会人生活をぶち抜く方法】

はじめまして。

大野研究室2017年卒(修士)の神田大成と申します。

新卒から電通という広告会社に入社し、ベンチャーや大手含む複数社のマーケティング支援をしています。

そして現在3年目が終わろうとしています。

せっかく執筆の機会を頂いた、且つ、若手という立場なので深いことは言えない(笑)

という状況を踏まえ、メルマガ編集の学生さんが編集作業中ちらっと読んだときに少しでも面白いなと思ってもらえるよう文章を書きたいと思います。ですので、メイン対象を学生に置きます。笑

読んで頂いている先輩方は生意気な若手がいるな、、ということでお許しください。

社会人になった際に、最速で突き抜けるためのアドバイスを3つほどします。

僕自身突き抜けているかは知りません。笑

①先輩を丸裸にし、良い部分だけ敬え

入社したあなたに立ちはだかるのが先輩です。

正直、大きい企業になるほど、総合的に見て大したことない人間の割合は多いです。

微妙な先輩だな~、頭悪いな~、やり方が陰険だな~など思うことも多々あるかと思います。

しかし、総合値だけで人を判断していては取りこぼしが生まれてしまいます。

例えば、頭が悪い先輩も人とのコミュニケーションの取り方がとてつもなく優れているかもしれないし、

NGしか言わない先輩はリスク管理能力が非常に優れているかもしれません。

一部分だけを見るのではなく先輩の行動を要素で分解してみてください。

先輩を人間としてではなく、スキルが組み合わさったパーツとして分析してみてください。

盗める能力、尊敬できる能力はきっとあるはずです。

尊敬できない人と一緒にいてもストレスがたまるだけなので、

尊敬できるところを見つけて仲良くしておいた方が得です。

どうしても見つからなければ更に上の上長に相談したり、他の尊敬できる人に相談しましょう。

②時間という概念を大切に動け

大学生と社会人で、一番価値観の変化があったのは「時間」についてです。

ほぼ無限大にある時間の中で自由に過ごしていたのに対し、

社会人には時間がありません。

生き急ごうとすればするほど時間はありません。

会社での業務が全てではないので、業務外の時間でもインプット、アウトプットの時間を上手に時間を捻出していく必要があります。

まず、会社の業務はだいたいがアウトプットなのでインプットは自力でやる必要があります。

でないと、他者との差別化は図れないので凡のまま終わります。

なのでまずは何の分野を学びたいか定めましょう。

そして、そのための時間を捻出しましょう。

ダラダラと仕事していて時間が終わっていたではダメなので、

何をどれくらいの時間でやるか見積もって、早く終わらせる努力をしましょう。

※最近の私は、広告マンだから、、という言い訳を言いながら早く終わらせてネットフリックスの流行りものを見まくってます。笑

③常に若くあれ

人は年を取ります。

意識しないと、身体面と共に精神面も年を取ります。

このことの恐ろしさを最近思い知ってます。笑

まず私は、精神面は常に若くあるほうが良いと思ってます。

なぜかというと、時代の流れについていけなくなるからです。

若者の動向をウォッチすべく、SNSなどでは高校生や大学生をフォローしたりしてますが

最近の高校生、大学生は知識も技術もすごいです。

高校生でアプリ開発したり、自身のブランドを立ち上げたり、1万人以上のフォロワーがいたり、、

既に自分は時代に取り残されているな、、と不安を覚えながら生きてます。

僕の推察ですが、この危機意識を持たないまま過ごすと、”微妙な先輩”になります。

①でも述べた”微妙な先輩”というのは、「能力自体が低いのではなく、持っている能力がその時代で価値を発揮しなくなっただけ」なんじゃないかと思ってます。

例えば、勢い&人情交渉で乗り切ってきた先輩は、ブラックボックスだった部分が丸裸にされた場所では力を発揮できませんし、酒を飲んでも長時間働ける先輩は、酒の席が減り、残業時間が制限された場所では仕事が遅い人になります。

上記のように、”微妙な先輩”も、「自身の持つ能力が時代に適応しなくなっただけで、能力としては良いモノを持っている」というのが私の仮説です。

せっかく一生懸命努力して働いて能力を身に着けたのに、後輩に”微妙な先輩”と内心思われるのは嫌ですよね。。

こうならないためにも常に時代のトレンドに順応し、若くいることが非常に重要です。

常にトレンドを追いかけ、知識として知るだけでなく、可能な限り体験してください。

でないと未来の若者に一瞬でやられます。

最後に写真を添付します。

これはちょうど先日、秋葉原にある武器屋(https://tokyolucci.jp/busoushouten-akihabara)

にて杖を購入し、魔術師っぽい映え写真を撮っている私です。(27歳独身)

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◇◆ 編集後記 ◇◆

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「e-OHNO MAIL NEWS第184号」はいかがでしたか。

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なお、バックナンバーは大野研究室のHP内でもご覧頂けます。

編集担当 摩嶋翼

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