e-OHNO MAIL NEWS 第187号

e-OHNO MAIL NEWS
第187号
2020/04/27 

大野研究室HPへようこそ!


 今月号のコンテンツ
         (敬称略)
【1】「本質」を見抜くには?
          大野髙裕 
【2】ビジネス最前線
          谷山隆彦 
【3】リレーエッセイ第21号
    シニアの部
          本田益雄 
    中堅の部
          浅野裕貴 
    若手の部
          早川直輝 
【1】「本質」を見抜くには?
          大野髙裕
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 コロナ感染はなかなか先が見えず、私たちの生活も仕事も五里霧中の状態が続いています。OB/OGの皆さまもそうだと思いますが、医療従事者だけでなく、食料を含む生活必需品等の製造関係、物流関係など、あるいは電気・水道・ガス・金融・公共サービスなどのライフラインや社会基盤を担うお仕事の方々も、自分の危険を顧みず、現場で命を削っておられます。そのことに深く感謝を申し上げたいと思います。本当にどうもありがとうございます。

 その一方で、そうした現場の大変さも理解せずに、表面的な事象・現象だけに注目して騒ぎたてて、ただ社会不安を煽っている。しかもそれを商売・金儲けのタネにしている人たちを見ると激しい憤りを覚えます。と同時に、モノゴトをいかに表面的にしか見ることができない人の多いことに気づかされます。もちろん、この私もその一人に過ぎないのですが、それではあまりに、悲しいことですし、何よりもそれが他者に迷惑をかけてしまっていることに申し訳なさを感じます。

 事象・現象として目の前にある、表面的な上っ面に振り回されないためには、「本質を見つけろ!」とよく言われます。私も、学生の皆さんにずっとそう言ってきました。ところが、「本質ってなんだ?」となると、ぼやっとしてますし、じゃあ、「どうやれば本質を見抜けるの、見つかるの?」という方法、ノウハウになると、まったく答えが明確に示されていません。おそらく、OB/OGの中堅以上の人たちは、部下に向かって、「もっと本質を見ろよ!」と叱っているでしょうし、若手は言われていると思います。言われるほうは「じゃあ、どうしたらいいか、具体的に教えてよ!」との一言も言いたくなります。でも、誰も教えてくれないので、しかたなので自分のカラダで覚えていることでしょう。

 そこで、今回は、それこそ私が60余年かけて、カラダで覚えてきた「本質とは?」と「本質の見つけ方」を伝授させていただきたいと思います。もちろん、自分でも不完全だと思いますので、ここはWikipediaやオープンソフトウェアのように、是非、皆さんと知恵を出し合って、より完成度の高いものへと進化させられたら、いいなあと願っています。

 まず、「本質とは?」ですが、私は3つあるのではないかと考えています。まず1つ目ですが、よく、「背後に隠れているものをあぶり出せ!」と言われます。ですから、トヨタの現場では「なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ」の「5回なぜ」が有名ですよね。「車体塗装にムラが生じた」という現象があった時に、なぜそういう不良が出たのかを「なぜ」で深堀りします。それは「因果関係の連鎖」を作る作業です。結果としての不良(現象)から原因へと遡っていく。因果関係を作って、「最終的な原因に到達すること=本質を見抜くこと~その1~」であり、『最終的な原因』、これが1つ目の「本質」です。

 2つ目についてですが、例えばクイズで、「1の時には1で、2の時には4で、3の時には9です。さて、4だったらいくつになりますか?」と問われたら、きっと理系出身の皆さんは即座に「16!」と答えます。なぜでしょう。それは y=x^2 (yイコールx二乗)という方程式を思い描くからですね。xが原因となってyの結果が決まる。そういうxとyの現象をいくつも眺めてみて、因果関係をさぐり定式化する。関数を作る。法則を見出しているのです。統計の回帰分析がその代表例です。別の「例えば」ですが、山に登ると寒いですが、高度が100m上がると0.6度下がるそうです。 「なんでこの山は寒いんだ」とガタガタ震える前に、高度と気温の関係という「本質」をつかまえておけば、あとは「今度登る山は何メートルだっけ?」と調べれば 適切な山登りの服装を選べます。つまり、「山は寒い」という表面的な因果関係っぽいもの背後にある「高度」という真の寒さの原因となっている変数を見つけて定量的な法則・関数として具体化することができます。ここまでくると、「本質」もビューティフルですね。ばちっと関数が決まって芸術的です。これが数学とか物理のすごい魅力、「本質」の神髄なのだと思います。ちょっと話があちこちに行ってしまいましたが、2つ目の本質は『因果関係=法則・関数』だと思っています。「因果関係を見出すこと=本質を見抜くこと~その2~」です。

 3つ目ですが、それは雑多な事象・現象の背後にある「軸」を見つけることです。例えば、白、黒、灰色の色紙が目の前にあるとします。どういう順番で並べたくなりますか? おそらく「白>灰色>黒」の順で並べる人が多いと思います。順序をつけるには、そこに何らかのルール、法則性(暗黙のうちにうち)を考えているからですね。この例では色の「明るさ(明度)」でしょう。つまり、これが数種類の色の背後にある「軸」です。この「軸」は色の間の類似性と異質性を示す尺度です。軸を見つけるには、目の前にある事象である色が、どれが似ていてどれが似ていないかを考える。そして、どうして似ているのか似ていないのか、その判断基準を自分は何だと考えたのか、すなわちどんなルールを想定したのか、を自分に問いただすのです。その「軸」さえ見つけることができれば、例えば黄緑色や深緑色が追加的に登場したら、黄緑色は明るい白に近いほうに位置づけ(分類)され、深緑色は黒に近いほうに位置付け(分類)られます。マッピングできます。これは本質をつかまえた後の応用(効能)ですね。このように3つ目の本質は「背後にある軸」であり、「軸を見つけること=本質を見抜くこと~その3~」ということになります。

 さて、3つの本質が分かったところで、今度はどうしたら、「本質を見つけることができるのか?」というノウハウの話に移りたいと思います。ですが、もう3つの本質のところで、ほとんど語っているので、復習・まとめみたいなものです。3つの本質のうち最初の2つ「最終的な原因」「因果関係」は同じ方法でアプローチ可能です。それは、
①まず事象について、何が原因で何が結果かを整理する
②その原因のさらに根本にある原因を「なぜ・なぜ・・・」を使って遡っていく
③その作業によって、原因の種類が膨らんでくるが、これはQC7つ道具の特性要因図(フィッシュボーン)を使って整理する
④これによって、共通の根本原因が見えてくるので、そこに最終的な原因が見えてくる
⑤逆に、結果からその先に何が結果として生じるのか、先の何段階かを追いかけていくことによって、どんな最終結果の「結末」を迎えるのかを把握する
⑥その結果の重要性が高ければ、見つけた最終原因の本質として価値は大きいことが判断できる(つまり早く手を打たねばならない)
と考えられます。このアプローチは「目的-手段」の階層構造体系と同じと言ってもいいかもしれません。手段=原因、目的=結果と考えれば同じことです。目的と手段の連鎖をどんどん川上へ、あるいは川下へ進んでいくと、上記のような最終目的と最終手段(具体的方策)に行きつきます。「目的ー手段」については2019年10月号に「目標の目的化の罠」で書きましたので、ここでは省略させてもらいます。

 次に「背後にある軸」の見つけ方ですが、これは事象・現象の共通性と異質性を見つけることから始まります。分類基準を見つけることです。それには事象の比較が必須です。比べるものがなければ、同じも違うも、生じません。「白」しかなければ明るさの軸は永久に出てきません。「黒」と比較して初めて明るさという概念が出てきます。そのアプローチですが、
①複数の事象を「似ている(同質性)」ものをグルーピング(分類)する
②なぜ、自分がそう判断したのかの自分の暗黙のルールを探し、それを一言キーワードで表現する
③今度は似ているグループの間の似ていないところ(異質性)は何かを探します。どうして似ていないと言えるのかのルールを考えて、これも一言キーワードで表現する
④ ②と③で思いついた複数事象の同質性のルールと異質性のルールを擦り合わせ、これが一致して入れば、事象・現象の背後にある「軸」が抽出できたことになる
⑤もしもルールの中身が違っていればそれを考え直すようにフィードバックを繰り返す
となります。どうでしょうか? 導き出した分類ルールこそが「軸」なのです。

 ところで、実際の事象・現象には必ずしも比較対象がそろっているわけではありませんね。その場合にはどうしたらいいでしょう。それは自分で比較対象を作るのです。「白」しか目の前になければ、「黒」や「赤」「青」「黄」を思い浮かべます。そうすると、「黒」が比較対象なら「明度」が軸となるでしょうし、「赤」「青」「黄」なら「色相」が軸として抽出されるでしょう。この作業はどれだけ関連知識を持っているかによって、比較対象の量や多様性に影響しますから、いかに普段から幅広い知見を持ってるかのトレーニングが要求されることになります。(いろいろな引出し(雑学)を持つことですね)

 このように、本質というのは「因果関係」と「潜在軸(因子)」です。ここまで来ると、何か思い出しませんか?ヒントは統計学です。本質の2つ目「因果関係」のところで「回帰分析」と書きました。では、「軸」の方はどうでしょう。そうです、因子分析です。つまり、本質を導き出す方法を統計学的に考えると、多変量解析の2大手法である「重回帰分析」と「因子分析」なのです。数学的に美しく抽象化した「本質」の抽出テクニックがこの2つなのです。ですから、OB/OGの皆さんにも、そして現役学生の皆さんにも、この2つの分析だけはしっかりと使いこなせるように、その数学的な構造までも理解してもらっているのです。なぜなら、数学的構造(モデル式、解法)には「本質」の把握方法の基本的なポリシーが含まれているからです。数学という極めて抽象度の高い道具による「本質」の把握ノウハウは、一方で私たちが直面する泥臭い現実問題である具象的な世界とは対局にあるだけに、学生の頃でしか味わうことができません。しかし、その対極を知る、つまり、比較対象を持つことによって、ここでも「本質」を把握するための「本質」に触れることができるのです。

 いかがでしたか? 最後は「本質の見つけ方」が多変量解析の手法にまで行ってしまいました。無理やり感もあったかもしれませんが、あながち外れてもいないと自信を持っています(カラ威張り)。

 写真は、先週撮った理工キャンパスの正門付近の写真です。閉鎖されていますが、季節通りにつつじの花が見事に咲いています。何があっても自然はきちんとその営みを送っています。私たちも浮足だつことなく、しっかりと今回のコロナ感染の「本質」を捉えて、急ぎ足でやってくる「想像の及ばぬ次時代」に対応したいと思います。
そのためにも、皆さま、どうかくれぐれもご安全にお過ごしください。
【2】ビジネス最前線
          谷山隆彦
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 初めまして。1988年尾関研学部卒の谷山と申します。在学中はGWRCという本部キャンパスのラグビー同好会一辺倒の日々で常に脳震盪気味。どうやって卒業したのか説明もつきませんが、先生方・先輩方には大変ご迷惑をおかけしたことだけは確かです。お世話になりました。コロナが明けたら大野研卒業式しましょうの件で先生とやり取りさせて頂いた流れで寄稿、しかもビジネス最前線!を仰せつかりました。なにしろ早稲田です。異聞・駄文ご容赦ください。

 卒業以来30年超、住友商事に勤めており、最初の5年を除いては一貫して自動車業界に携わってきました。現在はタイのバンコクに駐在しており、連日テレビの前に座って自分もコメンテーターの一人になっていることを妻に指摘される日々です。正直、今この大騒ぎの状況下で何を書けばいいのか、そして3月配信のメルマガにはまさに自動車ビジネスの最先端でグローバルブランドをリードされている原さんからの寄稿。どうしたものか。ということで商社という立ち位置の掴みにくい業態における自動車業界での取り組みの歴史と今後?について記させて頂ければと思います。

 社会に出る頃はまさにバブル絶頂期で仕事も遊びも24時間戦う時代でした。それ以来、株主資本主義・金融資本主義のもと、企業業績と効率性の向上、金融による消費拡大、儲けること、もちろんその為に価値を創造・提供すること、お取引先様やお客様から感謝のお言葉を頂けることを喜びとして暮らしてきました。

 21世紀に入ってからはマテリアリティー・CSR/CSV、昨今はSDGs (Sustainable Development Goals) やESG (Environment, Society, Governance) が叫ばれ、これらはグレタさんに言われる前からビジネス現場のメニューにはありました。でも今更ながらですが、私企業であろうとも公益資本主義やポスト資本主義という考えの取り込み方について本気で考えなければいけない時代になってきてる、と個人的には強く感じているところです。

 総合商社による自動車業界への絡み方には時代背景や試行錯誤の結果として様々な変遷がありました。住友商事の自動車ビジネスは1950年代の日野自動車製バスのミャンマー向け船積みというトレード機能の提供から始まりました。仕向け地での現地パートナー開拓、営業活動、輸出先企業への与信と為替リスクをコントロールすることが提供価値でした。1960年代後半からは自動車メーカー殿との合意を得て担当を任された国(Territory)でのディストリビューター経営。当該国での輸入卸販売を担うマーケティング業務、現地パートナーとの協働。ディーラー網を構築して在庫リスクなどをコントロール。自ずと自動車メーカー殿が直接タッチしにくい政情が不安定な市場がメインになります。自動車メーカー各社の海外進出・現地調達が進み、1980年代後半からは商社がディーラー経営に進出。各国地場地場での自動車小売業という最終消費者向けビジネスならではのリスクやクレーム管理とサービス品質の向上。1990年代前半からは四輪・二輪リテイルファイナンス事業に進出。個人信用リスク・資金調達の管理が肝。オートリース事業にも進出。そこでは残価設定のコントロールやメンテナンスネットワークの構築が課題。以上が自動車バリューチェーンの川中・川下にある流通・小売・金融分野でのビジネスの拡張・変遷。
 並行して川上分野では自動車メーカーの海外進出サポート、生産設備や量産部品の輸出入、海外各地の工場でのJIT納入体制の構築、部品メーカーとのタイアップ、等々に仲介商社として、業務提携関係或いは資本関係をもって取り組んできました。

 以上その時々で定性・定量面で強弱をつけて間尺に合うかどうかを判断しながら拡大・縮小、進出・撤退をしてきました。

 そして現在はCASE(Connectivity・Autonomous・Sharing・Electrification)やMaaS(Mobility as a Service)に代表される新しい領域における商社の立ち位置を模索している状況です。そこでの商社の機能は稼働のリスクをコントロールするところになろうかと思いますが、自動車の開発・生産・流通・販売・金融・リサイクルというサプライチェーンにおける従来のエコシステム内のメンバーだけでは賄いきれない分野であり、そして自動車のみならず社会インフラや資源のリサイクル(バッテリーなど)といった側面もありますので、従来の社内縦割り組織では対応不能、本部・部門・企業を超えた横の連携が求められます。

 私個人はこれまで色々な場所で色々な切り口でかかわらせて頂きましたが、薄口評論家の域を出ませんので割愛させて頂きます。

 さて、昨今の課題であるモビリティーサービスの分野は保有・所有から共有・利用への変化であり、そこにDX(Digital Transformation)を掛け合わせることで利便性を向上させ、更にはBig Data収集・分析・提供にまで拡張していく絵を描いています。でもいざ具現化していこうとすると、当たり前のことですが、やはり一人一人のお客様、一台一台の車、それが稼働・運営される地域社会という昔ながらの地に足の着いた人間社会における取り組みになり、車載通信機器・携帯のアプリなどの飛び道具さえあれば出来上がりなどという簡単なものではありません。事業範囲を技術力でレバレッジさせ、対象市場を拡大し、キャッシュに変え、再投資していく為の第一歩は、地面に立って、目視できる範囲内で、何をどう始めるかです。

 そして現在のコロナ禍。シェアリングからパーソナルへと逆の流れも。テレワーク・働き方改革が急ピッチで進みヒトよりもモノの移動が増える。事態は終息ではなく収束であり市場環境が100%元に戻るわけではない。ではどの様に変化するのか。模索は続きます。

 以上の流れからコロナ対応についての個人的コメントもさせてください。

 既にご覧になった方も多いと思いますが本田圭佑選手が拡散して有名になったというワシントンポスト紙の以下の無料配信記事を後輩が共有くれました。
https://www.washingtonpost.com/graphics/2020/world/corona-simulator/

 当方がこれを初めて見たのは3月31日でした。「家にいろ」の意味・効果が本能的に納得できるシミュレーションだと思いました(本文に複数のシミュレーションが差し込まれています。PCで見えない場合はモバイル機器を試して下さい)。これに14日間という潜伏期間があり、罹患しても自覚症状がなく気が付かないケースが多いこと。そしてそもそも命と健康がないがしろにされるところに社会活動などないということを考え合わせると何をしなければならないかは自ずと導かれます。昨年のラグビーワールドカップで学んだことはまさに目標と目的をまぜこぜちゃダメだっていうことだったのに、なぜ今こういう状況になっているのか。目から鱗の判り易い説明が早々になされることを期待します。

 最後に、わたくし自身はSocial Distanceの徹底に努める以外に何もできないですが、この混沌の中で医療・保健の最先端で日夜尽力下さっている方々、介護・養護などの現場で体を張って壁になって下さっている職員の方々、食糧の生産・供給・物流を日々支えて下さっている皆様、社会インフラを維持くださっている方々、困難な事態を飲み込んで対応下さっている金融・保険・不動産業界の皆様に改めて感謝いたします。皆様もご安全に!

2020年4月12日 谷山隆彦  
<3月26日のタイでの非常事態宣言発令前の24日、バンコク近郊の蓮池で家族と撮影>
【3】リレーエッセイ第21号
 ◎シニアの部
          本田益雄

画像 大野研究室の皆さまこんにちは。97年に大学院を卒業した本田益雄と申します。同期の折戸さんよりエッセイを引き継ぎました。大野研究室には、学校を卒業後、顔を出す機会もなく年月が過ぎ去ってしまい、先生の還暦のお祝いで久しぶりに先生にお目にかかりました。その会もつい先日のことと思っていたのですが、既に4年の月日が流れており時間の早さに大変驚いています。

 大野研では大学院までお世話になりましたが、学生時代は自分の興味が多方面にわたっていたことと学びと遊びの両立を目指していたこともあり、大野先生をはじめ、先輩方に色々とご心配もおかけしました。その反動?もあり、社会人としては、しっかりと仕事に打ち込んできたことをここにご報告いたします。

 卒業後、日興証券株式会社に入社し社会人としては、24年目を迎えます。20年以上の間、一貫して投資銀行部門の不動産セクターの担当として資金やM&Aの業務に携わっておりますが、所属する会社組織と取り巻く環境はその間大きく変化しており、世の中の経済、市場環境の変化によっておこる事象に翻弄されながら過ごしてきました。

 入社当初は、投資工学研究所という部門に所属していたのですが、入社の年は、まだ、バブルの負の遺産を金融機関が抱えている状況にあり、山一證券の廃業という“事件“が起こる中、次は日興証券が危ないといった噂も耳にするなど、日興証券もビジネスの見直しを迫られている状況でした。そうした中、入社半年後に社内で大きな機構改革が発表され、金を生まない部門は縮小するというコンセプトのもと研究所は一部を残し解体され、新入社員の私たちを含め研究員と呼ばれていた同僚、先輩は、金を生む現場へ出される、または、転職を余儀なくされることとなり、これが第一の転換点となりました。私は、当時流行り始めていた証券化商品の開発部署への異動が入社半年で出されることになります。

 その後も大きな転換点となる出来事が、2つありました。1つは、1年後の98年夏に公表された外資系のトラベラーズグループ(今のシティグループ)による法人部門の買収です。当時の金融不況が続いている中、総合証券会社としての存続が厳しくなり、法人部門を全てトラベラーズ傘下の証券会社であるソロモンブラザーズ証券との合弁会社に移行することになり、法人部門で働く人は、新しい会社に移るか、同じ職種を求めて同業に転職するか、リテール中心のビジネスとなる日興証券に残るかの選択をし、私はソロモンブラザーズとの合弁会社に移籍し投資銀行部員としてのキャリアをスタートさせましたが、当時一緒に働いていた方々は、バラバラとなりました。2つ目はリーマンショックに端を発するシティグループの日本でのビジネスの縮小に伴う日興證券の売却です。当時、日興の買収にはメガバンク3行が名乗りをあげていましたが、もともと日興証券が三菱系に多くの主幹事会社をもち関係が近かったこと、日興証券自体が興銀の債券部門の流れを継いでいたこともあり、買収先は三菱かみずほだろうと社員の誰もが考えていました。ところが買収先として決定したのは、当時大和証券との合弁会社を有していることから到底あり得ないと思っていたSMBCとなりました。銀行系の証券会社となったことで外資系のそれとは全く異なるカルチャーの中で業務を続けることとなりました。そこでも多くの同僚が銀行系傘下になることを拒み転職していきました。暫くは混乱の中突き進みましたが、早10年の月日が経ち最近ではようやく組織としての落ち着きが出て来たのではと思っています。

 こうした大きな流れの中でも幸いにも同じ業務を行うことができ、業界のこの分野での最古参の一人となってしまいました。金融業界とりわけ証券会社は非常に人材の流動性も高いので、20年も全く同じ部門にいて同じような仕事をしていて飽きが来ないのかという質問もよく受けるのですが、経済や企業は生き物と同じで、経済環境、市場環境は大きく日々変化していますし、企業も数年たてばステージも変わってきますし人も変わっていきます。同じような資金調達の案件においても時々により、経済環境も働いている人、そして判断の基準となる法制度までも変わっている場合がありますので、前回同様にこなせる案件はほとんどなく、飽きている暇がなかったというのが実感です。最近では、ある意味色々なものを定点観測している面白さを感じられることが楽しくなっています。リーマンショックをはじめとしたこの20年の間での経済環境の変化に企業はどのように乗り切っていったか。取り巻く法制度そこでの企業の意識がどう変わっていったのかという企業を取り巻く環境面のほか、人的な分でもその面白さはあります。20年近く同じ企業の担当をしている先もあり、当時若手だった方が、部長となり、担当者のリーダーレベルの方が役員、社長となられているような企業もあり、企業そのものだけでなくお客様とともに成長していることも実感することも多くなっています。また、転職の多い金融業界の中で同僚がどこに行ったのかという情報も入ってきやすいこととお客様の業界での人の異動、どのポジションに人が足りてなくて困っているか、場合によっては。人の紹介をお願いされることも増えてくるなど、様々な観点で企業をサポートできるようになっているなど新たな楽しみも出てくるなどまだまだ今の業務への楽しみを発見することができそうです。

 今この原稿を書いるのは、緊急事態宣言が出た直後の4月12日ですが、人生初のテレワークに3月から入っています。普段は、顧客先に訪問していることが多い職務ですが、今はノートパソコン、ipad、携帯電話を駆使しながらなんとかやっている状況です。こうした状況でもお客様と電話会議で普通に業務が行われていて、まだ1か月足らずですが、私もお客様もはやくも慣れてきたような気がしています。50歳近くにして自分は意外にまだ適応力があるかもしれないなどと考えると同時に、今回の騒動の中で働き方ばかりでなく仕事の進め方をはじめ色々なものが一気に変化していくような気もしています。

  毎日ニュースやネットではコロナ関連のニュースで気が滅入ることも多いと思いますが、こういったときだからこそ自分の本分を改めて見つめなおし、慌てずしっかりとやるべきことを見定め行うことを心がけています。一方で、家で過ごす時間も少なく平日の夕食など家族と食べた記憶がなかったのですが、3食を家族とともに頂く時間を愛おしく感じるなど幸せを感じる瞬間もできています。在宅中に日課となった近くの神社への朝の散歩で見上げる広く澄んだ青空に感動すら覚えます。今回の世界的な経済活動の自粛の中で世界中の空気がとてもきれいになっているという記事を見かけました。投資の世界でもSustainabilityを意識する投資家が増え、企業に対してもどうあるべきか議論することも増えていますが、こうしたことを契機に継続的な社会と人が本来あるべき姿をひとりひとりが考え、より暮らしやすい平和な世の中になることを祈りしつつとりとめのない文章を終えたいと思います。

 ◎中堅の部
          浅野裕貴

画像 大学院から編入してファイナンスを学び、2010年に修了した浅野です。ご無沙汰しております。
 卒業後は三菱UFJ銀行に就職し、長崎支店、システム部を経て、三菱UFJキャピタル(VC)に勤務しています。

 市場性与信リスクを皆さんはご存知でしょうか?
 デリバティブ契約者が倒産することで、銀行が損失を被るリスクのことです。
 デリバティブのプライシング、倒産リスク、担保、複数取引間の相殺が複雑に入り組む為、極めて定量化が難しいリスクになります。

 この算出システムをなんと、2000年に大野研究室を修了された斎藤先輩と一緒に作りました。斎藤先輩がビジネス含めた全行的なトップ(プロジェクトリーダー)となり、私がシステムの全体設計(機能設計のリーダー)をしました。
 アサインされたときは驚きました。学生時代に一緒に巣鴨で大野研OBサッカーをしていた斎藤先輩と、まさか一緒に仕事をすることになるとは。しかしお陰様で、ユーザー部の本当に厳しい要求に対しても随分と庇って頂き、どうにか設計を完了することができました。
 (ヨイショ無しに)斎藤先輩の、最先端の金融工学に対応すると同時に、クオンツ等のクセのある人材をマネージする姿こそ、大野研OBの理想形であると感じました。
 激戦地にこそ大野研OB有です。是非とも先輩との関係を大切にしましょう。

 その後、VCに出向し、AI/Fintechのセクターアナリストをしています。
 ビジネスモデルも市場性も明確でない生まれた直後の企業から、一本の成長ストーリーを描くことができるか否か、投資採算に合うか否かを判断する仕事です。ビジネスモデルとファイナンスの知識をフル活用しています。

 こう振り返ると、大野研で学んだことを私は相当活かしていますね。大学では機械工学を専攻していたのですが、思い切って大野研に編入してよかったと考えています。

 学生のみなさんに他にお話しすることがあるとすると、長崎支店。全く無関係の九州の長崎でしたが、”日本”を知る上では大変勉強になりました。短い時間であれば地方もいいですよ。
 あとは、起業について。VCから調達するのであれば、分かりやすい経歴がある方が有利になります。また、大企業の意思決定方法、価格感、業務フローを内部から理解していた方が、彼らを顧客にする際にも、競合にする際にも有利になると思います。

 写真は、今回私にバトンを渡してくれた杉山君を新婚旅行の際に訪ねたときのものです。杉山君が紹介してくれた本場フランスのビストロ、右が私、左が杉山くんで、妻はロシア人です(笑)。
 次は、同じく金融機関に就職し苦労した、同期の栗原君です!!

 ◎若手の部
          早川直輝

画像 こんにちは。2017年学部卒の早川と申します。
 この度、同期の上島さんから、バトンを受け取りましたので、拙い文章ではございますが、お付き合いいただければと思います。

 新卒で博報堂に入社し、4月から4年目に突入いたしました。入社直後から大きなクライアントさんを担当させていただき、Webページやメール、LINEといったデジタル領域の戦略立案や制作をしています。

 入社直後は、右も左もわからず、先輩の仕事に必死についていく毎日でしたが、少しづつ自分で作業できる範囲も広がり、いまでは個人商店のように仕事をすることが増えました。

 そんな私が意識しているのは、自分で”壁”を作らない、ということです。

 仕事を進めるにあたり、やりたいことを実現するためには、往々にして、自分の担当外領域とも関わっていくことが求められます。そういう時に、この人にお願いすればいいかな、と思う人に話を持っていくのですが、「これは私担当じゃないな、、」と一蹴されてしまい、「じゃあ誰にお願いすればいいんや!」とエセ関西弁のツッコミを心で思ったり。

 ただ、ふと我に返ってみると、新しいことをやる時は、担当なんてものはもちろんないし、誰かに頼ろうとしたところで、みんな分からないよな、、と、超絶当たり前のことを改めて感じました。

 それ以降は、たとえ領域外だとしても、壁を作らず、自分で解を見つける努力をしないといけないな、と心を入れ替え、必要なことや気になったことを、積極的に勉強するようにしています。

 とはいえ、職種柄(?)、がっつり勉強する時間の確保が難しいので、通勤時間やすきま時間に、少しでも本を開くようにしています。こんなに時間を作る努力をしているのは、大学受験以来かもしれません。

 そんな中、良くも悪くも始まった在宅ワーク。通勤がない分、集中して勉強できる時間が増えたことがとても嬉しく、今後、もっと在宅ワークが進んでほしいな、と個人的には願うばかりです。

 最後に、最近の趣味についても触れておこうと思います。私は、もともとサッカー少年だったのですが、社会人になって海外サッカーにどハマりしてしまい、ついには、ロシアW杯の準決勝、決勝戦を観戦しに行ってしまいました。(よくチケット代について質問いただくのですが、そこそこ引く金額です。)

 初めて生で見る海外サッカー、しかもW杯ということで、終始、感動しっぱなしだったのですが、一番震えたのは、ゴールが決まった時の8万人の歓声です。日本で8万人を収容できるスタジアムはないので、味わったことのない迫力がありました。

 皆さまも、この感動を、この迫力を味わうために、金銭感覚という名の”壁”を取っ払い、ぜひ盛大に課金してみてはいかがでしょうか!

 写真は、優勝セレモニー跡を背景に撮ったものになります。フランス代表エムバペ選手のセレブレーションを真似したのですが、そんなに難しいポーズではないはずなのに、どこかぎこちないですね。ワールドクラスとの差を突きつけられた瞬間です。

編集後記
 こんにちは。今月号の編集をさせていただいた修士1年の摩嶋です。
 今月号はいかがでしたか。自分としてはこの1カ月、コロナのせいで卒業式・入学式がなくなり、さらに授業開始も延期となり...全く予定と違う一方、コロナのおかげで心身の時間に余裕が生まれ、読書が捗ったり、こうやってメルマガをhtmlで書いてみたりもします。(得意でない自分が独学でやってみた程度なのでご指導ご指摘大歓迎です!デバイスによって表示に差異があり難しいです...)
 未だに在宅での受講にはやや気後れしていますが、オンラインのおかげで授業内外でできることに目を向けていきたいと思います。
大野先生への連絡先
ohno@waseda.jp
メルマガに関するお問い合わせ
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