e-OHNO MAIL NEWS 第198号 2021/03/29

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  e-OHNO MAIL NEWS 第198号 2021/03/29

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こんにちは。今月号のe-OHNO MAIL NEWSの編集を担当させて頂くこととなりました、B4の小河原康太と申します。

今回のメールマガジンは、以下のコンテンツでお送りいたします。

■ 今月号のコンテンツ ■ (敬称略)

【1】 他者の立場に立ってモノを見るということ  大野高裕

【2】 リレーエッセイ第31号

  (シニアの部)  三添明敏

  (中堅の部)   内藤瑛子

        (若手の部)   市田和弥

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他者の立場に立ってモノを見るということ  大野高裕

世界情勢がますます混迷を深めていく状況を見ていると、この混迷は予想以上に大きな歴史の転換点がやってきているシグナルではないかと感じます。中国のアメリカに対する挑戦を単なるこれまでの権力者(国)の交代と見るのか、それとも文明の大転換と捉えるのか、その違いによってこれからの世界の動きを見詰める目が大きく異なってくると考えます。前者であれは、15世紀のスペインの世界制覇から始まったパックスエスパニアからパックスブリタニカ、パックスアメリカーナへと変転したものが、パックスシニカ、すなわち中国の支配による世界秩序の形成への挑戦という位置づけとなり、そこには権力の基本構造や価値観に大きな変化は見られません。ということは誰が強いのか? 誰に従うことが得なのか?といった損得勘定だけで各国が動けばいいということになるでしょう。

一方、後者であると捉えると、これまでスペイン、イギリス、アメリカと主役交代はあったものの、キリスト教に基づく植民地支配経済方式をパワーの根源とする欧米の文明・文化・価値観が約500年間続いてきたという状況が、共産党中国の世界支配が実現することによって、権力の基本構造や価値観の土台そのものからひっくり返ることになるという見解になります。この2つの見方に対して、最近私は後者の考えが正しいのではないかと思うようになってきました。

私たち日本は明治維新以降、一貫して欧米文明・価値観に立って社会を形成してきました。何とか、欧米のようになりたいと、その技術や政策を取り入れ植民地支配経済方式を真似して大陸に進出し、大コケにコケて戦争に負けました。そして戦後4分の3世紀にわたってアメリカの庇護の下に、さらに深く欧米価値観、たとえば民主主義、個人主義を浸透させてきました。もちろん、その歩みは欧米のやり方のマネだけに終わったのではなく、結果的にアジアなど有色人種が長年苦しんだ欧米植民地支配のくびきから脱しせしめ、世界の多数の国々が独立する大きなきっかけをもたらしました。それは、今から始まるかもしれない欧米文明・価値観の世界支配の終焉を迎えるための大きな風穴を開ける作業だったのかもしれません。

日本が開けた欧米文明に対する風穴が、この80年弱の歳月を経て、共産党中国という新たな欧米文明への挑戦者を生み出しました。1980年代の鄧小平らの進めた解放改革路線には欧米も積極的に協力して中国の発展を後押ししました。それは欧米にとっても巨大な市場として利用できることと、かっての日本がそうだったように、経済発展によって民主主義化が進んで欧米価値観が定着するものと考えたからでしょう。だからこそ、最近の中国の世界政策である一帯一路にも何の懸念も持たずに欧州各国が受け入れていったのだと思います。ところが欧米文明ファミリーの一員となるはずと期待していた中国は、彼らの思い通りには動いてくれませんでした。中国共産党が力を失って民主化するはずだったのに、全くそうはならず一党独裁の強力な全体主義体制が維持されています。それが端的に表れたのが最近の「香港」に対する中国の動向であり、内容は皆さまご承知の通りです。

香港の問題も中国から見れば、アヘン戦争に負けて失った領土と国民を180年ぶりのちゃんと取り返しただけで、「一国二制度なんてちゃんちゃらおかしい」ということでしょう。でも欧米からすれば、「だって香港を返還した時に一国二制度を約束したじゃないか」という言い分です。欧米は法が支配し契約は守るという価値観で成り立っています。ですからルールは決めた以上は守るものというスタイルです。ただ、このルールを決める時には自分にとって絶対的有利に持っていくのが彼らのやり方です。例えば、スポーツのルールでも日本選手が強くてメダルを独占すると、急に欧米選手に有利になるようにルールを変更するなんてことはざらにあります。ところが、中国は極端に言えば、「今あるルールなんて知らないよ。トップが決めたら変更なんて当たり前でしょ」ということです。そもそも中国は民主主義という経験をしたことがありません。ぞの歴史はずっと王朝の栄枯盛衰の繰り返しで、新王朝は旧王朝を全否定してきました。ですからトップの意向が絶対という価値観が当たり前なのだと思います。なので、おそらく今の香港の問題も中国の人たちにとっては「何かいけないことなの?」という実感が強いのではないでしょうか?

そのように捉えると、ここへきてこれまで中国に対して親和的だったイギリス、フランスそしてドイツといった欧州の主要国が、一転して中国に対して厳しい態度を示し始めたことが理解できます。かって日本が高度経済成長の勢いを駆って経済大国として台頭してきた時、日本は欧米流のルールの範囲内で戦いました。ですから、欧米は自分の土俵の上で得意なやり方で日本の鼻を叩きつぶすことができ、その後日本は30年以上の不況に陥りました。しかし、今回の中国の場合は昔の日本の台頭とは全く異なり、欧米流のルールが無視され民主主義など価値観そのものが否定されているのです。つまり、中国に対抗する方策はこれまでの欧米のノウハウがまったく通用しないということだと思います。

そもそも、私たちにとって民主主義というのは今や空気みたいなもので、選挙によって、合議によってモノゴトが決まるというのは当たり前です。しかし、世界を見渡してみるとどうでしょうか? 確かに世界のGDPの大半を占める欧米諸国は民主主義かもしれませんが、アジア、アフリカ、中南米といった経済的に弱い国々は実質的には独裁国家が大半で、国連加盟国の多数を占めています。世界も民主主義が当たり前なんだと思い込んでいる私たちは、香港の問題で国連が中国に対する非難の決議を問うた時に、当然、大多数の国々が賛成するものと思い込みました。しかし結果は逆で、欧米以外の国々は「別に問題ないんじゃない」という態度を取り、過半数に至りませんでした。こうした国々の統治者たちは変に民主主義を煽って自分の足元が危うくなりそうな欧米に頼るよりは、自分たちと同じ価値観を持つ独裁・全体主義の中国の方がありがたい存在です。おまけに経済援助までしてくれるのですから、そちらになびいて当然でしょう。

このようにその国の人の立場・価値観に立ってモノゴトを見てみると、ちょっと不思議だなと思える動向の理由がわかってきます。お隣の韓国の大統領は北朝鮮に対して熱心に働きかけていて、それを国民も支持しています。民主主義国家が独裁国家にすり寄るなんて危ないんじゃないかと、私たちは自分の尺度で考えてしまいます。しかし、韓国と北朝鮮は米ソ対立の中で分断された訳で、好き好んで別々の国になったわけではありません。そして韓国が民主主義を選択したのもアメリカのパワーによるものです。歴史的には中国の庇護の下に一つの王朝国家であった時間の方が長いのですから、与えられた民主主義よりも民族の統一の方を大切に思うことは当然のことと言えるでしょう。北朝鮮が核武装しても、それは韓国にとって危ないことではなく、民族としては核武装ができたという達成感の方が強いかもしれません。そう考えると、これから韓国にとって、アメリカや日本は邪魔な存在以外の何物でもないということになります。

このような視点で考えてみて、さて日本はどのような国なのでしょうか? 島国であるということも手伝って、有史以来日本はずっと国家としての独立を保ってきました。明治維新後も欧米の植民地にならず何とか独立を保とうと、先人たちはできる限りの知恵を振り絞ってもがいてきたのだと思います。おそらく欧米の価値観や方策に乗る以外の選択肢は見つからず、欧米と同じく植民地支配者側に回らざるを得なかったのでしょう。そして先の無謀な戦争に敗北し、これまで80年弱の間アメリカの庇護のもとで民主主義国家として存在しています。しかし長い歴史の中で見れば、直近の80年弱というのは微々たる時間です。今の体制が当たり前のようでいて、実は当たり前ではないことに気づかなければなりません。もちろん、どういう方向に行くべきかなどということをここで述べるつもりはありません。しかし、長年にわたって培われたその国や民族の価値観というものはそんなにたやすく変わるものではなく、またそうあってはならないと思います。私たち日本では権力者が交代しても、天皇という精神的な大黒柱だけはいつの時代も維持してきました。ですから、政権が交代しても、中国のようにそれまでの時代や文物が全否定されて破壊され尽くすなどというようなことはなく、様々な歴史的な遺産が数多くそのまま受け継がれてきました。こうした基本的な価値観は日本が日本であるためには、最低限のこととして維持されなければならないと考えます。

日本を地政学的に捉えてみるために、普段見慣れている世界地図を左に90度回してみます。すると、中国・韓国・ロシアが下にあり、その上に日本、そして一番上にアメリカという構図となります。こうやって、大陸の方から眺めてみると、中国やロシアにとって日本列島は太平洋の防波堤となって見えます。ロシアにとってアリューシャン列島・北方領土は太平洋の先にあるアメリカからの重要な防波堤であり、中国にとっては本州から南へ沖縄・台湾が防波堤となっています。つまり、ロシアからすれば地政学的に見て北方領土は防衛上絶対に手放せません。また中国からすれば、日本を味方につければアメリカとの対峙するための先兵として使うことができます。日本全体も取り込めなくても、沖縄や台湾を手に入れれば、太平洋の防波堤の半分は完成します。中国が尖閣諸島に侵入したり台湾を脅かしたり、沖縄に一帯一路で秋波を送っているのはそうした思惑によるものと解釈できます。

アメリカの立場で考えると、西太平洋がアメリカにとってどこまで必要なものかということが重要な論点となります。全世界を支配することを諦めて、欧州・中東に特化するつもりなら、日本を含めた西太平洋は中国に譲るということになるでしょう。「それで手打ちしませんか」ということですね。そうなると、日本は見捨てられてしまいますから、独立を保つために自分で自分を守るとともに足りない分は周辺とで同盟を築くか、あるいは中国に隷属して、対アメリカの最前線に立つかといった選択になりそうです。当然、アメリカが西太平洋を捨てないように、どうすればアメリカの利益を誘導できるかを考えることも必要でしょう。

こんな風に眺めてみると、現在のアジアの情勢だけでも、まるで戦国時代の国盗り合戦のような様相です。武田信玄と織田信長という大国どうしの覇権争いの中で、間に挟まれた弱小大名が内通したり裏切ったりして、何とか生き残ろうと必死で立ち回っていたことを彷彿させます。後世の私たちが戦国時代を「ああだ、こうだ」と歴史として面白がっているように、未来の人たちはいずれ私たちの今の様子を、同じように解説したり小説にしたりして楽しむことになるのでしょう。私たち自身が歴史上の登場人物そのものであることを忘れてはいけません。戦国時代と同じことが今、私たちの周りで実際に進行しているのです。決して目を背けることはできないのです。

拓殖大学前総長の渡辺利夫さんの文章の中に、ギルバート・チェスタトンという思想家の「死者の民主主義」という考えを見つけました。これは「選挙権に代表される民主主義は今生きている人だけがその権利を行使できるが、これは不公平なことで、先祖である死者にも民主主義が適用されるべきだ」というような論旨のものです。私たちはたまたま今生きていて、民主主義の恩恵を受けているが、過去の人にも未来の人にも平等にその恩恵が得られるように、今を生きている私たちが民主主義を行使するべきだという意味だと理解しました。私たちは日常生活の中で、今だけでなくこれから生まれてくる子供たちの幸せも意識して意思決定や行動を選択していると思います。そこまでは思いが及ぶのですが、死者までにはそれが至りません。もちろん死んでいますから選挙権の行使などは無理なわけで、どうやって死者の民主主義を実現するかというと、チェスタトンは「伝統を大切にすること」だと喝破しています。この意味は盲目的に伝統を墨守するということではなく、今を生きている人たちが選択的に未来へとつなげていくということだと思います。つまり、死者の民主主義は伝統によって、そして生者の民主主義は未来も見据えた各自の意思決定によってそれぞれが実現し、そのバランスをうまく調整することで、時間を超越した民主主義が実現されるのだと考えます。

長い歴史の流れの中で、現在を見詰めてみるというのは大切なことではないかと思います。そして、その視点から他者の立場に立ってモノゴトも見てみる、解釈してみるということが、今起きていることを俯瞰的に間違いなく捉えることができる秘訣ではないかと考えます。

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さて、最後に鉢植えの写真を見てください。これは半年ほど前のメルマガにも載せた鉢植えです。その時は「どんどん葉っぱが増えて大きくなるので2回も植え替えをした。命の息吹はスゴイね」といったことを書きました。ところが冬場に入って、1枚、また1枚と、どんどん葉っぱが枯れてしまって、写真の右側の葉っぱだけ1枚がポツンと残りました。その状態で1,2か月が経ち「もう枯れてしまってダメなのかな」と思いつつも、「最後の1枚が落ちるまでは」と置いておきました。すると、1週間くらい前に新芽が出てきて、今では左側にある葉っぱが古い右側を追い越すほどになりました。他の葉っぱもこれからどんどん出てくるかもしれません。もしも最後の1枚があっさりと枯れていたら、この鉢植えはゴミ箱行きでした。でもそれを救ったのは最後の1枚です。これを見て、「それぞれの存在には役割があるのだなあ」としみじみ思いました。もうダメかもしれないと思っても、頑張る「誰か」がいれば次につなげられる、全体を再生できるのだということです。そういう役割の人が組織には絶対必要です。その人にとっては貧乏くじのようにも思えますが、しかしそうやって全体を生かすことができるのがリーダーというものなのだと改めて感じた次第です。

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リレーエッセイシニアの部 三添明敏

2003年卒業/2005年修了の三添明敏です。私は大野研究室のM1で公認会計士試験に合格し、あずさ監査法人に入所、現在は監査法人のパートナーとして、金融機関向けに会計コンサルティング業務を行っています。

監査法人というと会計監査が主たる業務ですが、私も会計監査を今でも行っていますが、コンサルティング業務の方が比重が高いです。就活でよく聞くコンサルファームと監査法人のコンサル業務は同じです。というより、KPMGという1つのブランドの元、あずさ監査法人とKPMGコンサルティングが合同で1つのクライアントにサービス提供しています。

私は、2010年から12年までロンドンへ海外赴任した経験も活かし、IFRS(国際会計基準)の導入支援や金融機関のリスク管理の高度化など、海外KPMGを使ったグローバルな案件を多く担当しています。コロナ禍の前は、世界一周フライトで海外出張することも時々あり、定額料金になるので、週末は大西洋の島で過ごしたりしましたが、最近は、家から深夜早朝にWeb会議するだけの不規則な生活を過ごしています。コロナ禍で旅行もできないため、マイルの有効期限が気になるこの3月です(皆さんも、今月末期限のポイントやマイレージにご注意ください)。

私が大野研在籍時は、金融工学領域の研究が盛んで、EXCEL VBAでモンテカルロシミュレーションができるようになるのが当然という時代でした。私は同期の土居ノ内くん・名取くんからプログラムをコピーしてやり過ごしてきましたが、最近、ふと使う場面がありました。

私は昨年、監査法人全体のWithコロナ・Afterコロナ時代の働き方を検討する社内プロジェクトに参画しました。監査法人・コンサル業界は、クライアント先で業務を行うことも多く、多種多様な契約が動いており、クライアント先・オフィス勤務・在宅勤務と、職員がバラバラの動きをします。そこで大野研の頃の知識を絞り出し、職員の動きをシミュレーションし、定量的にあるべき勤務場所を導き出しました。各人がブラウン運動すると仮定し、とか、ゆらぎを考慮し、とかそんな高度な要素が入ったものではないのですが、大野研での研究は今でも役立つなと思った場面でした。

私が大野研在籍時代はほぼ毎年、大野研から1-2人の合格者を輩出し、そしてあずさ監査法人に吸い込まれていくのが黄金ルートでした。その頃のメンバー皆が優秀だったので、現在、社内では「大野研出身者=優秀」というA5ランクのブランド牛のように有名になっています(前回メルマガ寄稿の高木さんもその一人。私は除く)。私の4期先輩で、私がB2で研究室探しをしているとき、M2なのに監査法人で非常勤勤務をして活躍している人がいると聞いて、私も公認会計士を目指しました。次回はその渡邊崇さんにバトンを渡そうと思います。大野研在籍者の皆さんもぜひ公認会計士試験にチャレンジしてください。

PS 写真は小学生の娘二人との写真です。

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リレーエッセイ中堅の部 内藤瑛子

皆さま、こんにちは。2009学部卒、2011修士卒の内藤瑛子と申します。修了式から10年という節目に、このバトンを受け取ることができ光栄です。お世話になった方々への近況報告としてはもちろん、僭越ながら10年間を振り返って若い方々に少しでも参考になるお話ができればなと思います。

私は新卒から野村アセットマネジメントという資産運用会社に9年半勤務、昨年末に転職をして現在はティー・ロウ・プライスという米系運用会社の東京オフィスに勤めております。新卒で入るにはニッチな業界ですが、理系の素養を活かしつつ、ワークライフバランスも比較的とりやすいということで、幸いにも私は女性であることがビハインドになるどころか、ありがたい経験をたくさんさせてもらってきました。これまで、インデックス運用のポートフォリオマネージャー2年半、機関投資家営業3年半、海外MBA留学2年(スペインのIESE Business School)、グローバル債券のポートフォリオマネージャー1年半、現職では改めて機関投資家営業として働いております。中でも、30歳を過ぎて初めて経験できた海外生活は、バルセロナ暮らしという素敵な響きに反して非常にチャレンジングなものでした。しかし、2年間で700本以上という膨大なケーススタディに取り組み、世界中から集まった同級生たちと様々な角度から議論を重ねた経験は、自らを見つめなおし、価値観や世界観を大きく拡げる、かけがえのない機会となりました。留学話は長くなるので割愛し、帰国後、会社の人事制度の変革などもあり、転職を検討することになったのですが、その際に考えたことを少しお話したいと思います。

現役の学生の方々はおそらくもっと感じていることかと思いますが、世界が目まぐるしく変化する一方、日本人にとってのキャリア構築も能動的にならざるを得ない時代となってきました。当時の私はMBA新卒に近い状態で、ITのようないわゆる成長業界もしくはそれに繋がる転職にチャレンジする可能性も残されていました。対照的に、伝統的な金融の世界で働き続けるということは、市場自体が大きく拡大するわけではない中、これから本当に必要とされるものは何なのか、自問しながらキャリアを作っていくということになります。しかし、資産運用業の使命感のようなものは大事に思っていましたし、ビジネススクールでの学びから自分なりに導いた「本当に強い企業(コーポレートミッションが一貫、カルチャーが浸透、簡単に模倣されない強みを確立、長期的でサステイナブルな経営を実践)」を体現していると思えた会社との出会いにワクワクし、結果的に引き続き伝統的な金融業界に身を置くという、敢えてチャレンジングな選択をすることにしました。

そして、ポートフォリオマネージャーというのは業界的には花形らしく、なぜ自ら離れたのかとよく聞かれるのですが、自分が最も貢献を望む形で仕事をしたい、という気持ちが強くありました。若いころには、仕事の結果が目で見えにくい金融業界はモチベーションを見出しにくいと感じていた時期もあったのですが、前職での営業の仕事を通して考え方が変わりました。長く保守的なポートフォリオを維持してきた日本の公的年金に対して、海外のパートナー運用会社とともに一歩踏み込んだ運用商品の提案・導入に取り組む過程で、(かなり忙しい日々となったものの)金融業を通じた社会への貢献を模索できたことが私にとって大きなモチベーションとなったのです。現職でも引き続きお客様は日本の年金ですが、よりピュアにプロダクトのクオリティを追求する組織、米国外でのビジネスを本格的に始めて数年というステージで新たな挑戦ができていることを幸せに感じております。

10年間を振り返ると、思うようにいかず、悶々とした日々を送ることも多々ありました。しかし、悩みの多かった帰国後の経験が現在の仕事によく活きていますし、留学中に悪戦苦闘していた際はそれまでの業務経験からの学びがブレイクスルーをくれました。点と点が線に繋がる瞬間のようなものは案外あるなと思います。前向きにひたむきに頑張っていれば、人生に無駄なことはないということを強く感じます。そして、今がこれからの人生で一番若いということも、自分の中に躊躇する気持ちが出てきたときに思い出すようにしています。日本は経済的に非常に恵まれた国である一方、多様性や生き方の柔軟性が許容されづらいという意味では特異な環境です。私たちは無意識に、年齢や性別でこうあるべき、と自らの人生の選択肢を狭めてしまいがちです。あとで後悔するくらいならば今やりたいことから逃げない、そんな気持ちを持って選択を繰り返すことで、切り拓かれていくことは多いのではないかと信じています。

精神論みたいなまとめでお恥ずかしいですが、読んでいただきありがとうございました。大野研究室の皆さんの頑張りに日々刺激をいただいておりますので、今後もメルマガを楽しみにしています。リレーのバトンは、まさに私とはまったく異なる分野で大活躍している、1期下の長井くんにお渡しします。

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(写真は2019年春、憧れだった卒業式のガウンを着て。まさか2つ目の修士をとることになるとは10年前には思いもしませんでした)

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リレーエッセイ若手の部 市田和弥

皆さん初めまして。2020年院卒の市田和弥と申します。

同期の加藤君よりバトンを受け取りまして、寄稿させて頂きます。

新卒でKDDIに入社しまして、早いもので1年が経とうとしています。皆さんご存じの通り、今年は通信業界にとって激動の年となりました。今まで安定した利益を確保していましたが、総務省の一声によって値下げせざるを得なくなり、従来のMVNOと同程度の金額のプランを各社発表することになりました。従来5,000~7,000円程度の料金設定だったものが、新プランではオンライン限定とはいえ2,480円と大幅な値下げを余儀なくされました。まさか自分の入社した年にここまで大きな変化が起きるとは思っておらず、今の時代では「安定」という言葉は存在しないのだなとしみじみ感じております。

私は通信事業側ではなく、au PAY、au PAYカード、スマートパス、auでんきなどのライフデザイン(非通信)領域全体の戦略立案を行なっています。通信事業が減収となり、今まで以上にこのライフデザイン領域で収益を上げる必要があり、様々な案件が降ってくる中で目まぐるしい毎日を送っています。(もし学生の皆さんで通信業界に興味ある方いましたらご連絡ください!)

話は変わりますが、つい最近学会誌に投稿した査読結果が返ってきました。この論文は卒業時(2020年3月)に提出したもので、11ヵ月ぶりに手元に戻って参りました。当然のことながら1発合格とはならず、久しぶりに論文修正に追われました。11ヵ月も過ぎると自身が書いた論文の中身も忘れてしまうもので、最初は論文を読み返すことから始めましたが、その際に大学院時代の様々な記憶が蘇ってきました。

大学時代も自分なりには苦しんだつもりですが(先生にはどう見えていたか分かりませんが笑)、特に大学院時代は中々研究が進まず、辛い日々を過ごしていました。その度に大野先生、川中先生に手を差し伸べて頂き、なんとか論文完成に漕ぎ着け、一息つけるかと思いきや、実は卒業判定の最終発表の場でも一悶着ありまして、ギリギリまで卒業できるか不安でしたが、先生のご尽力のお陰で卒業判定を頂くことができました。その節は本当にありがとうございました。あの頃のことを思い出すと、良い思い出の一方で、いまでも身が震えます笑。

最後にゴルフ場で撮った写真を添えさせていただきます。こちらは千葉のゴルフ場で撮影したものですが、決してホールインワンしたわけではなく、コース上に看板が刺さっていたので気分だけでもと思い、満面の笑みで撮影してみました。(ホールインワン一度は経験してみたいものですね。)このご時世で中々ゴルフにも行けておらず、大野先生とも一回ご一緒したきり、今度またいきましょうという約束を果たせてないので近いうちにお供させて頂きたいと思っています。

次回のバトンは大学院時代同期の名古屋さんに託したいと思います。

皆さんくれぐれもお体にはお気を付けください。お読み頂きありがとうございました。

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◇◆ 編集後記 ◇◆

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「e-OHNO MAIL NEWS第198号」はいかがでしたか。

e-OHNO MAIL NEWS で大野研OB・OGへ発信したい情報等ございましたらお寄せください。お待ちしております。

なお、バックナンバーは大野研究室のHP内でもご覧頂けます。

編集担当 小河原康太

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「e-OHNO」は、大野研のOB・OGへ毎月17日の配信を予定しています。

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