e-OHNO MAIL NEWS 第151号

先月3月24日の学科・専攻の卒業式では、なぜか私が祝辞を述べることになってしまいました。いつもは学科のOBにお願いするもので、たとえば私たちの仲間でいえば、松井建設の松井隆弘さんやNTNの十河哲也さんから祝辞を頂戴したのは、その代表例です。
今回、私が喋ることになったのは、それだけ歳を取ったということと、大学の理事をやっているので、「大学全体のことを喋ってほしい」という要望によるものでした。そこで今月号のメルマガでは、その時に話したことを要約して書いてみたいと思います。祝辞ではパワーポイントのスライドも背景に投影しましたので、このページに沿って書いてみます。

スライド1 祝辞タイトル
メルマガ2017-4-1

皆さん、ご卒業おめでとうございます。
さて、本日は「早稲田を卒業するとは?~心身に刷り込まれたワセダ魂のDNA~」と題して、お話をしたいと思います。

スライド2 無意識の自覚
メルマガ2017-4-2

皆さんは、「やったー」と喜び勇んで入学したのか、あるいは「しょぼ~ん」と仕方なく入ってしまったのか…。きっかけはどうあれ、今日まで早稲田で学んでしまいました。そして、とうとう今日、卒業する自分がいます。この間、知らずに染み込んでしまった「ワセダ魂」というものがあると思います。そして、今日からはいやでも「ワセダ出身」というレッテルを張られて、そのように世間から見られてしまいます。しかし「早稲田だよね」って言われても、それが何だか自分でもうまく説明できない。たとえば、「ワセダだから不器用だ」とか、「うるさい」とか「理屈っぽい」とか、個々の言葉は出てきても全体像がよく分かりません。
そこで本日は、いったい、このワセダ魂はどこから来ているのか? を卒業式を一つの機会として確認してみたいと思います。

スライド3 某ライバル大学との比較
メルマガ2017-4-3

己を知るにはライバルとの比較が一番と言われます。ありがたいことに、私たちには誰が見てもライバルと見做してくれる某大学、慶応義塾があります。ここと比較してみましょう。
ところで、私立大学には創設者がいますが、国立にはいません。国立大学は他人のお金である税金で創られましたが、私立大学は創設者たちが「私財を投げ打って!」という必死の思いがあります。だから「建学の理念」があるのです。
 さて、ライバル大学との個別比較ですが、まず創設者のキャラがまったく違います。本学は1882年創設ですが、今から135年前の私たちの『親』の姿が違うタイプなのです。慶応の福沢は教育者で著述家というアカデミシャンであり、今でも慶応では『先生』と呼ばれるのは福沢先生のみで教授も『君』です。一方、早稲田では決して「大隈先生」とは言いません。「大隈」とか「大隈重信」と名前の呼び捨てです。これは創設者に対しても、きわめて客観的に見ているのです。創設者だからすべて正しいわけではない。是々非々で大隈のことを眺めています。と同時に大隈への親しみにあふれている『呼び捨て』です。大隈はとても国民的な人気があったそうで、1922年の大隈の葬儀の時には30万人が沿道から見送ったそうです。当時は今のように校友60万人の時代ではありませんから、早稲田で学んだことのない人たちからも特別な親しみを持たれていたという証拠でしょう。
 福沢には「学問のすすめ」という名著がありますが、大隈には著書もなく悪書だったそうですから掛け軸もない。しかし、演説はきわめて人を惹きつける魅力にあふれていました。その演説集を大学で昨年出版し、今日は卒業記念として皆さんにお配りしましたので、ぜひ読んでもらいたいと思います。
 大隈は大法螺吹きで「人生125歳説」を唱えていました。人間は節制すれば125歳まで生きられるという論で、「あまり根拠はない」と自分でもどこかの演説で言っています。当時の平均寿命は50歳を切っていましたから、現在のような平均寿命90歳近くを当てはめれば、寿命「200歳説」になるわけで、これなら私たちの感覚でも、当時の大隈重信いかにが大法螺吹きであったかがよく分かります。
 また福沢は1万円札の表面を飾っており、いつも羨ましいと感じますが、実は、大隈は日本の通貨単位である『円』というもの創りました。「円単位」なのですから、こちらのほうが強いです。1兆円、100兆円でも何でも作れてしまいます。こんなことを考えてしまうのもの大隈の大法螺吹きのDNAのなせる業というものかもしれません。
 さて、慶応とのイメージ比較でいうと、慶応は「スマート」、「固い結束力」、「明快な人材像」、「クローズド」、そして「経済への貢献」といった特徴ですが、一方、早稲田の場合には「泥臭い」とか、「群れない」、「雑多」、「オープン」、そして「人への貢献力」といったものが特徴と言えるでしょう。

スライド4 早稲田大学DNAの根源
メルマガ2017-4-4

 こうした早稲田のカラーやキャラの起源やDNAを見える化するとなると、どこを探ればいいのでしょうか? 
その答えは早稲田大学の『建学の精神』にあります。早稲田大学が何を目指しているのか大学の建学の理念をまとめたものが『早稲田大学教旨』で、大隈たちは創設30周年を期して1913年にまとめました。これは本日お配りした大隈の「演説集」の141ページにも記載されていますので、あとで読んでみてください。早稲田大学教旨は「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」の三本柱から構成されていて、①新たな学問成果を得る②得た学問成果を社会に役立てる③社会に貢献するリーダーを育てるという内容となっています。

スライド5 あなたが生きる時代のキーコンセプト
メルマガ2017-4-5

ところで、卒業生の皆さんがこれから活躍する時代のキーコンセプトは、当面、「グローバリゼーション」「イノベーション」「ダイバーシティ」の3つに集約されるでしょう。グローバリゼーションという環境下でダイバーシティという価値観を大切にし、その実現を目指すために、解決の手段としてイノベーションを展開していく。これが強く求められていくことだと思いますが、早稲田大学教旨の三本柱は「学問の独立」が「イノベーション」に、「学問の活用」が「グローバリゼーション」に、そして「模範国民の造就」が「ダイバーシティ」に相当していると考えています。多様な世界の人々を幸せにできるリーダーを育成し、新たな価値を生み出し、これをグローバルに役立てる、そうしたことを目指してきたのが早稲田大学の起源でありDNAであると思います。

スライド6 早稲田大学校歌
メルマガ2017-4-6

皆さんが何かにつけて歌っている早稲田大学校歌は、実は建学の理念である『教旨』を歌として表現したものになっています。ところで、校歌は1番から3番までありますが、3番までで必ず出てくる共通の言葉が一つだけあります。それは『理想』です。だからバカみたいに未知の世界に挑戦したり、人のやらない道を行きたがるというワセダ魂が育まれてきたのです。
そして、1番には「進取の精神、学の独立」というイノベーションが、2番には「東西古今の文化の潮、一つに渦巻く大東国の」というグローバリゼーションが、最後の3番には「集まり散じて人は変われど」というダイバーシティが盛り込まれています。つまり、100年以上前から、現代の重要キーワードを、早稲田は実践すべく理想高く取り組んできたのです。大隈たちが心血を注いできた早稲田の「建学の理念」は、現代そして将来にも決して陳腐化することなく輝き続けているのです。
では、そうした理念は「言葉」だけだったのでしょうか?「思い」だけだったのでしょうか? 決してそのようなことはありません。きちんと実績を積み上げてきました。たとえばグローバリゼーションでは、早くも1905年に清国留学生部という組織を設けて、大学の総力を挙げて中国からの留学生を受け入れ、そして育てて独立運動家として大勢を送り出しました。また、1920年代には学生総数1万人のうち、25%が留学生で占められていました。留学生数が日本一のダントツを誇る現在が10%位ですから、今よりもずっとグローバル化されていたということになります。ですから、今でも中国をはじめとするアジア各国において、早稲田大学は圧倒的な知名度を持っているのです。
イノベーションで言えばソニーを創設した井深さんが代表選手でしょうし、戦後だけでも6名もの総理大臣を輩出しているのは早稲田だけです。そしてダイバーシティという点では日本全国の地域の発展に寄与した人たちの多くが早稲田の卒業生であり、そして、だからこそ、卒業生ではない早稲田ファンが全国各地に多数おられるという事実がその体現者であることの証拠と言えるでしょう。

スライド7 大隈演説
メルマガ2017-4-7

ところで、大隈が『早稲田大学教旨』の三本柱において最も強調したことは何でしょうか? それを大隈は『教旨』制定時の記念式典における演説で語っています。要約すると、「人間は専門知識を吸収すると、利己的となって世界の人々のために尽くすという犠牲的精神が失われる。そうならないような人格の養成が重要であって、それは一生努力し続けなければならず、早稲田大学にとっては『模範国民の造就』が最も大切だ」と言っています。つまり、「人間は知識だけ増えれば他人を出し抜いて自分だけうまく立ち回り、いい思いをしがちだが、世界の人々のために自らに犠牲的精神を課して考え行動する卒業生を創るのが早稲田大学の使命である」と喝破しているのです。これこそが早稲田大学の起源であり、私たちに受け継がれているDNAなのです。

スライド8 もっとも基本となること
メルマガ2017-4-8

卒業する皆さん一人ひとりに、こうしたワセダ魂を世の中で実現してほしいと思っていますが、そのための前提になることを最後に申しあげたいと思います。お相撲では『心・技・体』と言いますし、あるいは人間の備えるべき基本として、「体力・気力・知力」などということも言われます。どれも大切ですが、さて3つの中でどれが最も基盤となることでしょうか?
知力というのは自分にないものを他人から拝借することができます。協働することもできます。気力は意識ですから共有することができますし、励ましあうこともできます。しかし、体力はその人固有のものであって、他人が代わってあげることはできません。自分が何とかしなければならないのです。何もアスリートである必要はありません。自分なりの体力を常に備えておくことが全ての前提となります。若いからといって過信しないで、体のメインテナンス、健康維持はしっかりお願いしたいと思います。

スライド9 ご卒業おめでとうございます
メルマガ2017-4-9

ご卒業おめでとうございます。あなた自身を含む、世界の皆さんの幸せのために大いに羽ばたいてください。ご活躍を心から期待しています。
『行ってらっしゃい』という言葉を最後にお送りしますが、『行ってらっしゃい』には対になる『おかえりなさい』があります。早稲田大学はいつでも皆さんのことを『おかえりなさい』と待っています。母校は『母港』です。母なる港として皆さんのお帰りを待っています。それでは安心して『行ってらっしゃい』。
ご卒業、本当におめでとうございました。

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