研究テーマ

大野研究室では、『マーケティング・サイエンス』・『企業・組織への数理アプローチ』『行動ファイナンス・リアルオプション』などの領域で様々な統計手法や、数理解析、シミュレーションなどを用いて、研究活動に取り組んでいます。その内容としては、多変量解析や確率論を応用した理論研究、産業界に対する新たな知見の提供や社会課題の解決につながる実証研究のほか、企業との共同研究などの形でも研究を行っています。

マーケティングサイエンス

マーケティングサイエンスは、マーケティングの意思決定やその支援を数理モデルを構築してアプローチする研究です。具体的には、マーケティングにおいて重要な要素となる消費者行動や価格反応を数理モデルを用いて定式化し、シミュレーションや統計的検証を行う事で、価格戦略や販売促進戦略などの意思決定に寄与する分析を行なったり、新たな消費行動モデルの構築に寄与することができます。

例えば以下のグラフは、スーパーにおける中食の最適価格が顧客の購買状況、来店顧客数、経過時間によって変動する事に着目し、PSM分析によって割引を行った場合の最適価格を算出したうえで、在庫を増やす場合と来店顧客数が減少した場合の効果にについて分析を行った研究です。

若林侑、”消費期限を考慮した中食の最適な割引価格の提案”、2019年

最近の新たな研究領域として、脳波などの生体反応をマーケティングに活用したニューロマーケティングの分野にも取り組んでいます。近年の研究に企業の4つの異なるCSV(Creating shared value)活動内容を閲覧した際の消費者の印象形成や閲覧後の消費者が企業に対して抱くイメージや信頼性への影響を観察した研究が存在します。

出所:高田真也、枝川義邦、木幡容子、平林雄太、大野髙裕、”CSV活動内容の差異が企業イメージ向上に与える影響の分析”、経営システム学会、2022年。

トライブとは消費者の趣味嗜好や価値観に基づくグループを指しています。例えば近年の修論にSNS情報からLDA手法を用いてトライブを分類し、エンゲージメント向上に対する影響を分析する事で、新たなトライブマーケティングの可能性を探った研究があります。

寺畑勇希、”投稿内容に着目したLDAによるトライブ抽出法の提案、2022年

研究キーワード:経験価値、知覚価値、ニューロマーケティング

企業戦略への数理アプローチ

提携や合併・買収といった、他企業との連携・統合などの企業戦略が企業の成長戦略として広く活用されるようになってきています。これらの研究は経営学の領域でも進められていますが、データサイエンスなどを活用する事で、経営工学の分野からも新たな知見を提供することが可能になります。

例えば、技術シナジーに起因するアライアンス戦略についてゲーム論に基づき利得関数を定義し、提携の形態ごとに提携企業の便益を評価し、シミュレーションによりアライアンスの成功要因を検証した研究があります。

研究キーワード;アライアンス、ゲーム論、

出所:石原奈央、”ゲーム理論とリアルオプションを用いた技術協調戦略に関する研究”、2021年

行動ファイナンスとリアルオプション

ファイナンス領域では、リアルオプションや、行動経済学的アプローチをもとに資本市場や投資行動について、数理モデルや数値実験などを用いた研究を進めています。

例えば以下の研究では、ヘルスケア領域のJ-REIT:不動産投資法人について、情報開示の程度に差があるサブグループに分け、サブグループごとの資本コスト:βの相関などを見ることで情報開示がJ-REITに与える影響を分析しています。

Appropriate Disclosure of Risk Factors associated with Investments in Healthcare Properties 
右橋俊毅, 大野高裕
International Journal of Japan Association for Management Systems 9(1) 19-26 2017年12月

また、以下のモデルは、株式投資型CF(クラウドファンディング)の投資動機にリスクやリターンといった従来の要因だけでなく、共感が影響するという仮説をもとにその影響を共分散構造分析(SEM)により分析を行ったものです。

出所:畠中優樹、”投資先への共感を考慮した株式型CFの投資意思決定要因の分析”、2022年

さらに、マルチエージェントシミュレーションを使ったアプローチとして、例えば投資家を、投資行動の特徴から、行動経済学に基づいて短期志向か長期志向か、順張りか逆張りかで4種類のタイプに分類したうえで人口資本市場で実験を行い、株式が購入されるか売却されるか実験した研究もあります。

名古屋百恵、マルチエージェントシミュレーションを用いた個人投資家の投資行動分析、2020年

研究キーワード;リアルオプション、マルチエージェントシミュレーション、行動経済学